先日、「人との出会いが、会社の未来を描き始める」という記事を書きました。
その中で、支援先企業の社長は、
「工場や設備を大きくすることが第一の目的ではありません。私たちの技術を生かして、付加価値の高い分野を切り拓いていきたい。」
と語られました。
設備を増やすことや規模を追うことが目的ではありません。
これまで培ってきた技術を生かしながら、新しい市場へ広げていく。
その考え方が、とても印象に残っています。
中小企業が成長を目指すとき、新しい事業へ挑戦することは大切です。
しかし、その一方で、これまで培ってきた強みとは全く異なる分野へ進出し、必要な知識やノウハウが十分にないまま事業を始め、苦戦するケースも少なくありません。
その点、支援先企業が目指しているのは、一つのコア技術を生かしながら、用途や市場を広げていく戦略です。
私は、この考え方は中小企業にとって非常に堅実であり、事業のリスク分散にもつながる重要な戦略だと考えています。
そして、この考え方は、支援先企業だけに当てはまるものではありません。京セラ創業者・稲盛和夫氏の歩みや、『中小企業白書』で紹介されている企業などにも共通する考え方だと感じています。
京セラも同じ考え方だった
先日、「危機感が、新しい市場をつくる」という記事で、京セラ創業者・稲盛和夫氏のお話をご紹介しました。
京セラ創業当初、売上の多くは松下電器(現パナソニック)向けでした。
しかし稲盛氏は、
「このまま一社への依存を続けるのは危険だ。」
という強い危機感を抱きます。
そこで、自社の技術を武器に、さまざまな業界のお客様を訪問し、新しい市場を切り拓いていきました。
その際、特に印象に残った言葉があります。
「この技術はこの用途でしか使えない。」
そう決めつけてしまうことは、自ら可能性に制約をかけることになる。
稲盛氏は、そのような固定観念を持たず、
「この技術は他の業界でも役立つのではないか。」
という視点で、お客様を訪ね続けたそうです。
私は、この考え方が京セラの成長を支えた大きな要因の一つだったのではないかと思います。
中小企業白書でも紹介されている
実は、このような考え方は京セラだけではありません。
『中小企業白書』でも、一つのコア技術を生かして新しい市場へ展開した企業が多数紹介されています。
その一社が、神奈川県横浜市にある社員43名の株式会社アルファーテックです(本記事記載時点)。
同社は、もともと特定業界向けの製品を製造していました。
しかし、その市場が縮小したことをきっかけに、自社の強みを改めて見直します。
そこで着目したのが、
「細いピンを加工する技術」
でした。
会社が変えたのは技術ではありません。
その技術を生かす用途です。
「細さ」という強みを磨き続けながら、
半導体、自動車、医療など、それまでとは異なる業界へ展開していきました。
その結果、一つの技術を軸に複数の業界へ事業を広げ、多角化と安定した成長を実現しています。
技術は磨き、用途は固定しない
私は、京セラとアルファーテック、そして現在支援している企業には、一つの共通点があると感じています。
それは、
コア技術は磨き続ける。
しかし、
その用途は固定しない。
ということです。
全く新しい技術を開発することだけが新規事業ではありません。
今ある技術を、
- 別の業界へ。
- 別のお客様へ。
- 別の用途へ。
展開していくことも、新しい価値を生み出す重要な方法です。
そのためには、市場へ出ることが欠かせません。
お客様と対話し、困りごとを知り、
「この技術は他でも役立つのではないか。」
という可能性を探し続けることが重要です。
人との出会いが、技術の可能性を広げる
私は先日の記事で、
「人との出会いが、会社の未来を描き始める」
と書きました。
今回改めて感じたのは、人との出会いは、経営者が会社の未来を描くきっかけになるだけではないということです。
自社の技術が持つ可能性を広げるきっかけにもなる。
そのことを、京セラ、アルファーテック、そして支援先企業の三つの事例から改めて感じています。
お客様との出会い。
異業種との出会い。
展示会での出会い。
大学教授や研究機関との出会い。
新しい人との対話の中から、
「この技術は、こんな分野でも役立つのではないか。」
という発想が生まれます。
技術そのものは変わらなくても、人との出会いによって、その技術の見え方や可能性は大きく変わります。
私は、これからの中小企業にとって重要なのは、闇雲に新しい技術へ挑戦することではなく、自社のコア技術を磨き続けながら、その技術を必要とする新しい用途や市場を探し続けることではないかと考えています。
そして、その新しい可能性は、机の上で考えているだけでは見つかりません。
市場へ出て、お客様と対話し、異業種の人と出会い、現場の声に耳を傾ける。
その積み重ねが、
「この技術は、こんなところでも役立つかもしれない。」
という新しい発想を生み出し、会社の未来を広げていくのだと思います。
コア技術は一朝一夕には育ちません。しかし、その技術をどのような用途や市場へ広げていくかは、人との出会いや市場との対話によって大きく変わります。私は、その可能性を経営者とともに考え続けることも、伴走支援の大切な役割の一つだと考えています。
