経営計画をつくる目的は、単に将来の売上高や利益の数字を決めることではありません。会社の現状を知り、事業を取り巻く環境を捉えた上で、これから会社をどの方向へ進めていくのかを考える。そして、それを言葉と数字にし、社員や金融機関と共有することに大きな意味があります。
経営計画については、多くの書籍が出版されています。また、中小企業活性化協議会をはじめとする公的機関でも、経営計画をつくるための様々な書式が用意されています。こうした書式を使えば、何について考え、何を書けばよいのかが分かります。
一方で、私が実際に中小企業の経営計画づくりを支援していて、一般的な書式だけでは十分に検討しにくいと感じていることがあります。それが、「会社の現状をどのように捉えるのか」という部分です。
会社ごとに事業内容も違えば、商品、顧客、市場、抱えている課題も違います。そのため、一般的な書式では、ここまで具体的に示すことが難しいのだと思います。しかし、私は、ここが経営計画の出発点といってもよいほど重要だと考えています。
商品と顧客を数字で見てみる
会社の現状を知るために、私が特に重要だと考えているのは、
・商品の分析
・得意先の分析
・そこに投入している経営資源の分析
の3つです。
商品については、まず売上高の大きい順に並べます。得意先についても同じように、売上高の大きい順に並べます。そして、それぞれについて、
・収益性はどうか。
・売上高は増えているのか、減っているのか。
・今後、成長するのか、縮小するのか。
を見ていきます。
難しい分析表をつくる必要はありません。Excelで一覧表をつくれば十分です。また、すべての商品や得意先を細かく分析する必要もありません。
売上高の大きい順に並べ、累計で80%程度、さらに詳しく見るのであれば95%程度までを分析すれば、会社の事業構造のかなりの部分を把握できます。一般的には、売上高の上位20%程度の商品や得意先で、売上高全体の80%前後を占めていることも少なくありません。
大切なのは、こうした分析を通じて、
・どの商品が利益を生み出しているのか。
・どの商品がこれから成長しそうなのか。
・どの商品が今後、縮小していく可能性があるのか。
・どの顧客に伸びしろがあるのか。
・どの顧客で販売シェアを高められそうなのか。
を考えることです。
どこに経営資源を使っているのか
商品や得意先の分析と同時に見てほしいのが、そこにどれだけの経営資源を使っているかです。経営資源というと難しく聞こえるかもしれませんが、例えば、
・投入している人員
・投入している時間
・営業担当者の訪問回数
・在庫金額、在庫月数
・売掛金、回収サイト(売掛金の回収日数)
などです。
得意先であれば、営業担当者が過去3か月に何回訪問したかを数えるだけでも、多くのことが分かります。商品、顧客、収益性、成長性、そして投入している経営資源を重ね合わせて見ると、それまで見えていなかったことが見えてきます。
例えば、
「この商品はこれまで会社の収益に大きく貢献してきたが、売上高は少しずつ減っている。将来的にはさらに縮小するかもしれない。」
「この商品は売上高こそ大きくないが、利益率が高い。」
「ある地域では、それほど営業活動をしていないにもかかわらず高いシェアを持っている。他の地域でも営業活動を強化すれば伸ばせるかもしれない。」
「この得意先は利益がほとんど出ていないのに、営業担当者が何度も訪問している。一方で、伸びる可能性のある得意先にはあまり訪問していない。」
「同じ商品なのに、ある得意先には多く販売できているが、別の得意先にはほとんど販売できていない。」
「この得意先にはA商品を多く販売している。それなら、まだ販売していないB商品も提案できるのではないか。」
といったことです。
一つひとつは、それほど難しい分析ではありません。しかし、実際にここまで商品別、得意先別に数字を並べ、経営資源の使い方まで含めて検討している中小企業は、それほど多くないと感じています。
分析は、会社の方向性を考えるために行う
こうした考え方は、新しいものではありません。ピーター・ドラッカー教授は著書の中で、事業を構成する製品や市場などを分析し、どこに経営資源を集中するのかを考えることの重要性を論じています。
また、「日本のドラッカー」とも呼ばれ、多くの中小企業の経営改善を指導した一倉定氏も、商品や得意先などを分析し、経営改善につなげることを重視しています。ABC分析や年計分析など、様々な分析方法がありますが、分析そのものが目的ではありません。
重要なのは、分析によって会社の現状を知り、これからどこへ向かうのかを考えることです。
どの市場を伸ばすのか。どの顧客を伸ばすのか。どの商品を伸ばすのか。反対に、どの商品や事業への経営資源の投入を減らしていくのか。そして、人、時間、資金といった限られた経営資源を、これからどこへ振り向けるのか。
ここまで考えて、初めて経営計画の方向性が見えてきます。
方向性を定め、数値目標を設定する
方向性が見えてきたら、それを具体的な数値目標に落とし込んでいきます。主要商品別、主要得意先別に、今後の売上高や粗利益の目標を考え、それらを積み上げて会社全体の収益計画をつくります。
単に、「来年は前年比○%増」とするのではありません。私は経営計画を見ていると、前年比10%増といった目標を見ることがあります。もちろん、その数字に明確な根拠があれば問題ありません。
しかし、現状分析を行わず、過去の数字に一定の割合を掛けただけであれば、それは会社の方向性を示した経営計画とは言いにくいと思います。過去の延長線上で売上高や利益を伸ばしただけでは、事業の構造は変わらないからです。
例えば、私が支援している会社の中には、事業の方向性の一つとして、加工を伴う商品や付加価値の高い商品の割合を、業界の垣根を越えて高めていくことを掲げ、その数値目標を明確に設定している会社があります。
単に「売上高を増やす」という目標ではありません。どのような事業構造へ会社を変えていくのかを考え、その方向性を数字で表しています。
貸借対照表とキャッシュフローからも考える
経営計画では、損益計算書だけでなく、貸借対照表やキャッシュフローについても考えるとさらに良いです。ここは多少専門的な知識が必要になりますが、とても重要なところです。
例えば、現在の純資産、つまり自己資本が少ない会社であれば、「自己資本をこの水準まで引き上げるためには、毎年どれだけの利益を残す必要があるのか」というところから逆算して考えることができます。
また、売上高が増えれば、通常は売掛金や在庫も増えます。利益が出ていても、売掛金や在庫が増えすぎれば、資金繰りは苦しくなります。
そこで、「売上高をここまで増やす。一方で、この商品の在庫は減らす」「回収サイトの長い得意先を見直す」「利益を積み上げ、自己資本を厚くする」といったことも同時に考えます。
利益を増やすことと、会社の財務体質やキャッシュフローを健全にすることを一緒に考える。
そうすると、経営計画の数字にもさらに意味が出てきます。
賃上げから必要な利益を考える
もう一つ、私が経営計画をつくる際に重要だと考えているのが、人件費計画です。特に現在は、継続的な賃上げを考える必要があります。
地域や業界と比べて賃金水準が著しく低ければ、採用でも不利になります。何より、会社が成長しているのであれば、その成果を社員にも還元し、社員の生活をより良くしていくことも大切です。
しかし、毎年数%ずつ賃金を上げていけば、当然、人件費は増えていきます。そのままでは会社の利益を圧迫します。
そこで、「賃上げを続けるためには、会社としてどれだけの粗利益(より正確には限界利益)が必要なのか。」を考えます。
「利益が出たから賃金を上げる」だけではなく、「社員の賃金をこの水準まで上げていきたい。そのためには、会社としてこれだけの利益を生み出せるようにならなければならない」という方向から考えることもできます。
実際に、私が支援している会社の中でも、このような考え方を経営計画に織り込み、賃上げにつなげている会社があります。
さらに会社が成長してくると、社員にとっては、「会社の業績が良くなると、自分たちの処遇はどのように変わるのか」「自分が成長すると、どのように評価され、賃金に反映されるのか」ということも重要になってきます。
そこで、業績評価制度、等級制度、賃金制度を整え、会社の成長と社員の成長・処遇をつなげていくことも必要になってきます。これは、私が「会社が成長する循環」の第5段階で行っている取り組みの一つです。
将来の方向性を示し、1年間の実行に集中する
経営計画では、3年や5年の数値計画をつくることもあります。もちろん、中長期的に会社をどの方向へ進めるのかを考えることには意味があります。
一方で、5年間の売上高や利益の数字を細かく作成し、それだけで計画をつくったつもりにならないことも重要です。
京セラ創業者の稲盛和夫氏は『経営12カ条』の中で、長期にわたる経営計画について、計画の過程では予測を超えた市場の変動や不測の事態が起こり、修正や計画そのものの見直しが必要になりやすいこと、また、得てして売上高が達成できないにもかかわらず、経費だけが計画どおりに増えてしまい、経営を圧迫しかねないことを指摘しています。
そのため京セラでは、まず1年間の経営計画を立て、その目標を何がなんでも達成するという姿勢で取り組んできたと述べています。そして、その年間目標を月々の目標へ落とし込み、日々の仕事へつなげていくことを重視しています。
私は、この考え方の本質は、「計画を徹底して実行すること」にあると考えています。
会社の方向性を示しただけでは会社は変わりません。その方向性を実現するために、責任者が担当する商品、顧客、市場を踏まえながら具体的な実行計画(アクションプラン)を考え、社長と徹底して議論し、実行する。そして、その結果を振り返り、必要に応じて修正しながら再び実行する。この繰り返しこそが重要なのです。
変化の激しい時代では、実際に行動してみなければ分からないことが数多くあります。だからこそ、1年間という期間の中で、実践と修正を繰り返していくという考え方は、非常に実務的であり合理的だと私は考えています。
一方で、稲盛氏は将来の方向性を示すことまで不要としているわけではありません。むしろ、「この組織は何を目指すのか」というビジョンや方向性を示し、その先にどのような未来があるのか、さらにその実現に向けてどう進んでいくのかを社員に示すことの重要性も説いています。
私は、会社の将来の方向性を明確にした上で、まず1年間の実行計画をつくり、それを着実に実践していくことが、経営計画を成果につなげる最も現実的な方法ではないかと考えています。
出典:稲盛和夫『経営12カ条 経営者として貫くべきこと』(日経BP 日本経済新聞出版)
経営計画を実行につなげる
経営計画で決めるのは、会社として「どこへ向かうのか」という方向性と全社の目標です。次に必要になるのは、それを具現化することです。そして、その実行の中心になるのは、社長だけではありません。
各部門の責任者が、自分たちの担当する商品、顧客、市場をしっかりと見ながら、会社が定めた方向性を具体的な行動へ落とし込んでいく必要があります。
そこで必要になるのが、アクションプランです。
誰が、何を、いつまでに、どのように行うのか。そして実行した結果を振り返り、必要であれば修正する。
この部分については、別の機会に詳しく書きたいと思います。
経営計画だけでは、新しい価値は生まれない
もう一つ、大切なことがあります。経営計画は、基本的には過去のデータと、現時点で知り得る事業環境や将来の見通しをもとにつくるものです。
したがって、どれだけ詳しく分析しても、現在の会社から見えている範囲には限界があります。
お客様がこれから何を求めるのか。まだ表面化していない困りごとは何なのか。市場にどのような変化が起きるのか。こうしたことは、過去の数字を分析するだけでは分かりません。
だからこそ、経営計画をつくった後も、お客様に入り込み、現場へ出て、実際の声や変化を継続的に捉える仕組みが必要になります。
そして、そこで得た気づきを社内へ持ち帰り、みんなで考え、新たな商品・サービスの開発、新規顧客の開拓、新規事業の創出、業務改善などにつなげていく。
これは、私が「会社が成長する循環」の第3段階以降で行っている取り組みです。
経営計画はゴールではありません。
会社の現状を知り、これから進む方向を決める。その方向を数字にする。具体的な行動へ落とし込み、実行する。さらに、お客様や市場から新しい情報を得ながら、必要に応じて方向や行動を修正していく。
私は、この一連の流れの出発点として、経営計画を位置づけています。
初回経営相談のご案内
経営計画で大切なのは、会社の現状を見極め、今後の方向性を定めた上で、実行につなげることです。
もし、
自社の現状をどのように分析すればよいか分からない。
経営計画を作成したものの、実行につながっていない。
次の成長に向けて、何から取り組めばよいか整理したい。
このようなお悩みがありましたら、初回経営相談をご利用ください。
会社の現状やこれまでの経緯を整理し、次の成長に向けて何から取り組むべきかを一緒に考えます。
