先日、経営計画について書いたブログの中で、京セラ創業者・稲盛和夫氏のことに触れました。
今回は、稲盛ライブラリーで開催された映像視聴会で、稲盛氏が盛和塾全国大会(1996年)で講演された「中堅企業へ成長していくために」の映像を視聴し、特に印象に残ったことをご紹介します。
稲盛氏は20代で会社を興し、一代で京セラを世界的企業へ育て上げました。その経営は国内外で高く評価され、多くの大学教授が研究を重ね、「稲盛和夫研究(稲盛ライブラリー発行、京都大学学術出版会)」が継続的に発刊されるなど、学術的な面からも高い評価を受けています。
約30分の講話では、
危機感・飢餓感に向き合うこと
創意工夫を続け、市場を創造すること
数字だけではなく使命を追求すること
自分自身を高め続けること
という四つの視点について語られていました。
その中でも、私が最も印象に残ったのは、「危機感」が新しい市場を切り開く原動力になるというお話です。
危機感が、新しい市場をつくる
京セラ創業当初、売上の多くは前職時代から取引のあった松下電器(現パナソニック)向けでした。
受注は順調に増え、会社も急成長していました。
しかし稲盛氏は、そこに大きな危機感を抱きます。
もし技術革新などによって松下電器からの仕事がなくなれば、会社は一気に立ち行かなくなるかもしれない。
その危機感から、自社の技術を武器に新しい得意先の開拓へ乗り出しました。
その際、稲盛氏が語られていた言葉が印象的でした。
業界に詳し過ぎる人ほど、
「この業界はこういうものだ。」
「この技術はこの用途でしか使えない。」
と、自ら可能性に制約をかけてしまうことがある。
一方、自分は素人だったからこそ、そのような固定観念を持たず、新しい業界へ飛び込むことができたというのです。
実際に得意先を一軒一軒訪ね歩き、
「こんな技術を開発しました。」
「この技術で何かお役に立てることはありませんか。」
「何かお困りごとはありませんか。」
と、お客様一社一社に合わせた提案を地道に続けました。
もちろん、その過程では数多くの試行錯誤や失敗も経験されています。
しかし、その積み重ねが、新しい市場を切り開く力になっていきました。
危機感を持ち続ける仕組み
この話を聞き、私が思い出したのが、セブン‐イレブン・ジャパン創業者の一人である鈴木敏文氏です。
鈴木氏も、会社が成長し、商品が売れ続けるほど、人は現状を当たり前と考え、危機感を失ってしまうことを繰り返し語っています。
書籍『鈴木敏文の「統計心理学」』(勝見明著・プレジデント社)では、その危機感を組織として持ち続けるための取り組みが紹介されています。
例えば、隔週で開催されるFC(フランチャイズ)会議では、全国のオペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC)が一堂に集まります。
OFCは店舗を訪問し、経営相談や売場づくりなどを支援する担当者です。
会議では、現場で感じたお客様の変化や店舗で起きている課題、改善事例や成功事例などを持ち寄り、活発な意見交換が行われます。
売上や数字を確認するだけではなく、
「お客様は何を求めているのか。」
「現場では何が起きているのか。」
を全員で考え続ける場であることが紹介されています。
書籍には、「危機感を実感する現場のOFC」という言葉も紹介されていました。
危機感とは、不安をあおることではありません。
現場で起きている変化を共有し、お客様の視点から自社を見つめ直すこと。
その積み重ねが、新しい発想や挑戦につながっていくのだと思います。
私は、危機感は個人の資質だけに頼るものではなく、組織として維持し続ける仕組みをつくることが、会社が成長し続けるためには重要なのだと改めて感じています。
中堅企業へ成長するために必要なもの
講話の中でもう一つ印象的だったのが、「目的の追求」についてのお話です。
中小企業が成長する過程では、売上や利益などの数字を追いかけることが重要です。
しかし、中堅企業へ成長するためには、それだけでは壁を越えられない。
社員一人ひとりが共感できる使命や目的を掲げることが、会社をさらに成長させる原動力になると語られていました。
京セラの経営理念である、
「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」
は、その考え方を象徴しているように感じます。
実践を通じて生まれた経営思想
今回の講話を通じて改めて感じたのは、稲盛氏の経営思想は、机上で組み立てられた理論ではなく、自ら経営の最前線で悩み、挑戦し、失敗を重ねる中から生まれた実践知であるということです。
危機感を持つこと。
固定観念にとらわれず、新しい市場へ挑戦すること。
使命を掲げ、人を育てること。
自分自身を磨き続けること。
これらは、中堅企業へ成長するために欠かせない要素として、実践の中からつかみ取られた考え方なのでしょう。
私自身も伴走支援の現場で、経営者や社員の皆さんと対話を重ねています。
危機感は、外から与えられるものではなく、お客様や現場に向き合う中で生まれ、それを組織で共有することで次の挑戦につながっていきます。
今回の講話は、そのことを改めて考える機会となりました。
稲盛氏の経営や考え方に興味のある方は、書籍だけでなく、ぜひ一度稲盛ライブラリーを訪れてみてはいかがでしょうか。
経営者としての息づかいや言葉の重みを、映像を通じて感じることができる貴重な機会になると思います。
