この実践の背景にある考え方
私が経営計画の策定や会議運営、評価制度づくりなどの伴走支援を行う際には、一つの理論だけを用いているわけではありません。
野中郁次郎教授の知識創造理論をはじめ、ピーター・ドラッカー教授、ケン・ブランチャード教授などの経営理論、さらに優れた経営者の実践や考え方など、多くの理論や実践知を参考にしています。
その中から、それぞれの会社の状況に応じて考え方を組み合わせ、現場で実践しています。
今回は、その中でも野中郁次郎教授の知識創造理論の考え方をもとに、ブログ「会議が変わる瞬間」を理論的な視点から振り返ってみます。
野中郁次郎教授と知識創造理論
野中郁次郎教授は、日本を代表する経営学者であり、企業が新しい価値を生み出す仕組みを体系化した知識創造理論を提唱されました。
知識創造理論では、社員一人ひとりが持つ経験や知識、お客様との対話で得た情報などを組織全体で共有し、新しい知識や価値を生み出していくプロセスを重視しています。
私は、この考え方を伴走支援の中で実践しています。
今回の実践で意識したこと
① 「場」をつくる
営業担当者が報告するだけではなく、それぞれが自由に意見を出し合える「場」を設定しました。
私は答えを示すのではなく、一つの問いを投げかけ、参加者同士の対話を促す役割に徹しました。
② 顧客視点からコンセプトを生み出す
「私たちがお客様に提供できる価値は何でしょうか。」
という問いを起点にしました。
営業活動の手段から考えるのではなく、お客様に提供する価値(コンセプト)を共有した上で、具体的な営業活動を考えることを意識しています。
③ 知識創造プロセス(SECIモデル)
知識創造理論では、個人が持つ知識や経験、お客様との対話で得た情報を組織全体で共有し、お客様にとって価値ある商品やサービス、仕事の進め方へ発展させていくプロセスを重視しています。
この知識が発展していく流れを、知識創造プロセス(SECIモデル:セキモデルといいます)として説明しています。
一般的には、このプロセスは、
共同化 → 表出化 → 連結化 → 内面化 という流れで説明されます。
ただし、実際の現場では必ずしもこの順番で進むわけではありません。
状況に応じて前後しながら、何度も循環していくことに大きな意味があります。
営業活動は属人化しやすく、それぞれの営業担当者がお客様との対話を通じて得た知識や経験が、個人の中だけに留まってしまうことが少なくありません。
私は、その知識や経験を会社全体で共有し、議論を通じてさらに発展させることに大きな意義があると考えています。
今回の会議では、お客様に提供する価値について議論し、それぞれが持っている経験や考えをどんどん出して頂きました。(表出化)
次回の会議では、その考え方を営業資料や提案書など、他部署の協力も得ながらお客様へ提案できる形にまとめ、戦術を検討します。(連結化)
その後、営業担当者がお客様へ提案し、実際の営業活動を通じて提案方法や顧客理解を深めていきます。(内面化)
そして、お客様の反応や新たに得られた情報を会議へ持ち寄り、経験や気づきを共有します。(共同化)
そこで、
「なぜうまくいったのか(うまくいかなかったのか)。」
「もっとお客様のお役に立てることはないか。」
を議論し、新たな提案や改善策を考えます。(表出化)
ここから、さらに具体的な提案へとつなげ、再びお客様に働きかけていくことで、知識創造のプロセスが次の循環へと進んでいきます。
このように知識創造プロセスを繰り返し回すことで、一つのお客様から得られた知識や経験が会社全体の知識となり、他のお客様への提案や新しい商品・サービス、営業方法へと発展していきます。
さらに、お客様との対話が深まることで、これまで見えていなかった課題やニーズが見つかることがあります。
その新たな気づきが再び会社へ持ち帰られ、次の価値創造へとつながっていきます。
私は、この知識創造プロセスを会社の中で回し続けることが、新しい価値を生み出し続ける会社づくりにつながると考えています。
④ 自律性
私は会議で答えを示しませんでした。
社員一人ひとりが自ら考え、自ら意見を出し、自ら行動を決めることを重視したからです。
知識創造理論では、自律性は、新しい知識や価値を生み出すための重要な要件の一つとされています。
今回の実践を振り返って
今回の会議では、一つの問いをきっかけに、それぞれが持っている知識や経験が引き出され、お客様に提供する価値について議論が深まりました。
重要なのは、私が答えを示したことではありません。
参加者自身が考え、対話を通じて知識を共有し、それを具体的な行動へつなげようとしたことです。
私は、知識創造理論とは理論を学ぶことが目的ではなく、現場で実践し、その結果を振り返りながら改善を重ねるための考え方だと捉えています。
これからも理論と実践を行き来しながら、伴走支援を続け、会社の中に新しい価値が生まれ続ける仕組みづくりを支援していきたいと考えています。
