前年の業績に一定の数字を上乗せして、来期の計画(予算)を作成する会社をよく見かけます。この計画の作成手順を見ますと、いろいろなやり取りを行うとは思いますが、それは基本的に営業担当者が作成したものがベースになっています。営業担当者が作成したものに営業部課長が修正を加え、上積みを行い、それが会社全体の予算として集計されるのです。
この方法は業績が良いときは問題がないでしょうけれど、業績が低迷している場合は問題だと思うのです。それは営業担当者が作成したものがベースになっているという点です。なぜ営業担当者が作成したものがベースになっている計画が問題なのかについてお話する前に、業績低迷の原因について考えてみたいと思います。
業績が低迷する主な原因は販売不振です。販売不振は成長力もあり優位性もあった主力商品が競合品が出てきて汎用化し差別化が難しくなってきたこと、もしくは需要減退で起こります。営業担当者は何とかして売上を盛り返そうと努力しますが主力商品の売上が元に戻ることはありません。正しい姿は衰退しつつある商品の営業強化は止めて、収益率が高く、成長が見込まれる商品への投資、営業活動と供給態勢の強化を行うことです。この決定は営業担当者にはできません。トップが決定して、方針を出す必要があります。なぜならば収益率が高く成長が見込まれるとはいえ、成長しつつある商品の販売実績は現状は少ないからです。衰退しつつあるとはいえ、今もかなりの量の売上が見込まれる商品の販売活動を横に置いてまで、伸びるかどうか不確かな商品を営業担当者が積極的に営業するとは思えないからです。営業担当者には売上ノルマがあります。心理的に既存のものを優先すると思うのです。このことは得意先についても言えます。今日まで多くの売上を確保できた得意先が競合他社の影響で業績が年々低下し、連動して当社の販売量も下がってきている。営業担当者はこの得意先への売上を戻そうと既存品の販促活動を引き続き行うと思いますが、先ほどの商品の例と同様、売上が回復することは先ず難しいと思います。
業績が低迷している会社において、なぜ営業担当者が作成したものがベースとなっている計画が問題かというと、それは衰退しつつある商品や業績が低下している得意先への販売量の維持または強化がその根底にあるからです。当然のことながらその達成は計画段階から無理が生じています。ゆえに計画は下方修正を何度も行うことになり、成行き経営に陥ってしまうのです。私はこのような光景を幾度も見てきました。業績を改善するにはこの成行き経営から脱する必要があります。
業績を回復するには会社が維持発展できるために必要なあるべき数値目標を最初に設定した方が良いです。それは過去の実績に多少の上乗せをを行うものではありません。現状とは明らかに異なる数字になると思います。自己資本比率が低ければ対外的に評価される目標を設定する必要がありますし、賃金も地域水準以上に上げていく必要があります。あるべき数値目標を設定すると現状の決算内容との差が明確になります。そして現状の商品構成や得意先構成のままではあるべき数値目標には到底到達できないことがハッキリしてきます(現状とあるべき目標とのギャップが生じるわけです)。こうして初めて、あるべき目標に近づけるためには商品構成を変えなければならない、設備・外注政策を変える必要がある、営業マンを増員する必要があるなど、ギャップを埋めるために検討すべきことがいろいろと出てくるわけです。こうした検討によって、会社は変わっていくのだと思います。経営計画というのは数字の予測ではありません。それは会社を維持発展させるためにどのように会社を変えていくのかを明らかにし、どのように実現していくのかを会社全体に浸透させていくことに最大の意義があります。そして、経営計画に打ち立てた方針があってはじめて社員は新たな市場、新たな取り組みに挑戦できるのだと思います。