ご覧いただきありがとうございます。これから数回にわけて、社長が見るべき決算書の要点を事例をまじえながら解説していきたいと思います。よろしくお願いいたします。
今回は、前回に引き続き会社の安定度を示す「自己資本比率」についてお話したいと思います。自己資本比率は会社の安定度を示す重要な指標です。この比率は高いほうが健全です。高ければ高いほど負債が少ないことを意味するからです。※このあたりの話は前回解説していますのでご覧になっていない方は是非ご確認下さい。
自己資本比率は10%未満になると要注意ですね。比率が低いほど負債が多く、経営が不安定であることを意味するからです。
事例を挙げて解説したいと思います。(仮にA社、数字はあえて分かりやすくしています。)
A社の売上高は前期2,000から今期2,500に増収、利益も前期40から今期50に増益、純資産も200から250に増加していました。損益計算書だけ見ると改善していますよね。
次に自己資本比率を見てみましょう。
自己資本比率の計算式は、純資産(自己資本)÷資産合計×100(%)です。
資産合計が前期も今期も同じ2,000だった場合、自己資本比率は以下のとおり改善します。
(前期) 純資産200÷資産合計2,000=10.0%
(今期) 純資産250÷資産合計2,000=12.5% 2.5%改善
問題なのは、資産が増えすぎた場合です。
資産合計が2,000から3,000に増えた場合、自己資本比率は悪化します。
(前期) 純資産200÷資産合計2,000=10.0%
(今期) 純資産250÷資産合計3,000=8.3% 1.7%悪化
事例が示す通り、業績は改善したけれど自己資本比率が悪化したため、全体評価としてはよろしくないということが起こり得ます。資産が増えすぎないようにコントロールする、しっかり見ていくことが大事です。資産をチェックする上で、特に重要なのが、販売債権(受取手形と売掛金)、在庫、固定資産の持ち方です。今回は販売債権について一つ事例を紹介したいと思います。
I社は、私が前職時に関係会社社長に取引中止を助言した会社です。I社の倒産からある程度時間が経過していますが、詳細はあえて伏せさせて頂きます。
I社は某上場企業の孫会社で地場では信用力のある会社でした。I社の売上高は増収基調で利益もそれなりに出ていましたが、貸借対照表がいっこうに良くならないのです。それは自己資本比率に表れていました。売上高はたしかに増加していたけれど、その実態は、価格を下げたり回収期間を長くすることで、無理に商売を取りにいった結果であり、信用状態の良くない会社にも販売開拓を行うことで成り立っていたのです。
このようなことを行っていると、売上は増えるけれど利益率は下がり、利益は思ったように増えていきません。回収するまでの期間も長くなり資金繰りも悪化します。信用状態の悪い会社に販売した代金の回収は進まず、中には倒産する販売先も出てくるなど、回収が出来ない販売債権も発生していました。
こうなるとI社の売掛金は中々減りませんよね。販売した代金の一部が回収が出来なくなったり、回収までに時間がかかるわけですから。一方で日々新たな売上が発生しますので、売掛金はどんどん膨らんでいったのです。売掛金は資産ですから、I社の資産は著しく増加していったのです。このような経緯でI社の自己資本比率は一向に改善せず、最後の方は悪化していたと記憶しています。
なお、話は自己資本比率に留まりません。販売した代金の回収が滞る一方、仕入代金は支払わなければなりません。黒字だけど資金繰りはどんどん忙しくなり、銀行借入が増加するという悪循環に陥っていったのです。
自己資本比率が悪化する場合、その要因は二つ挙げられます。赤字ともう一つは資産の持ち方の悪さです。赤字はすぐに分かりますが、資産の方は気づかないことがあると思います。利益が出ていれば大丈夫と考える方が多いと思うのです。その際、自己資本比率という指標を使って、自社の決算を点検してみて下さい。
黒字だけど自己資本比率が悪化傾向にある場合は、特に販売債権、在庫、固定資産について詳しく確認いただければと思います。自己資本比率は、税理士が作成する財務指標に記載されていると思います。顧問税理士の先生に確認頂くか、ご自身で計算頂ければと思います。